地方DXが進まない理由とは?現場で直面しがちな課題と解決に向けた3つのステップ
2026.05.29
「地方DXが重要なのはわかっている」「セミナーや補助金の案内が届くたびに、うちも何かしなければと感じている」にもかかわらず、具体的なアクションを起こせずにいるという中小企業・組織も少なくないでしょう。
実際に、DXに取りかかれない動けない理由のひとつとして、DXに関する情報のほとんどが、実態とかみ合っていないことにあります。大企業の華やかなDX成功事例や、行政が示すロードマップは、人手も時間も足りない現場の実情と噛み合わず「自分たちとは別の話」と思われがちです。
そこで本記事では、地方DXの本質的な意味や、進まない原因の構造、現場の課題を解決する3つの実践ステップを解説します。「うちでもできる」と思えるヒントを、具体的な事例とともに紹介します。
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地方DXとは何か?

地方DXとは、地方の社会システムにデジタル技術を導入・変革することで「経済活動の活性化」や「市民生活の質向上」を目指す取り組みです。
全国的に少子高齢化による労働力不足が問題視されるなか、地方では若年層の都市流出も深刻で人材不足に拍車がかかっています。地方DXは地域固有の課題に対し、デジタル技術を実装手段として活用することで、地域再生の鍵となる取り組みです。
例えば、農業ハウスのセンサーデータをAIで分析して収穫時期を最適化したり、地方工場にRPA(ロボットによる業務自動化)を導入して受発注業務を自動化したりする取り組みが該当します。
また、そもそもDXとは、経済産業省が2018年に示したガイドラインでは、下記のように定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
つまり、業務プロセスの単純なIT化ではなく、データとデジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織・文化そのものを根本から変革することが本質です。地方DXは、これを地域単位で実践しようとするものです。
背景には、コロナ禍を契機に都市部でデジタル化が急加速した一方、地方との格差が一層拡大したことへの危機感があります。ただし地方では、専門人材の不足、デジタルリテラシーの低さ、根強く残る紙ベースの業務慣行などが、DX推進の障壁になっています。
IT化・デジタル化・DXの違い

三者の関係を整理すると、IT化で業務効率化の土台を築き、デジタル化で業務プロセスを変革し、DXでビジネスモデルごと進化させるという段階的な構造になっています。
| 項目 | IT化 | デジタル化 | DX |
|---|---|---|---|
| 目的 | 作業効率の向上・コスト削減 | 業務プロセス全体の変革 | ビジネスモデルの刷新・新たな価値創出 |
| 対象範囲 | 特定業務の部分的な改善 | 人・モノ・プロセス全体 | 企業・顧客体験を含む全領域 |
| 変革の深さ | 業務改善に留まる | 新たなビジネス創出も可能 | ビジネスモデルごと進化 |
| 具体例 | ワープロソフトの活用・在庫管理システムの導入 | 紙文書の電子化・対面商談のWeb化 | 在宅ワーク+Web会議ツールで顧客対応力・商談数を向上 |
IT化が「道具を使いこなす」段階だとすれば、デジタル化は「仕事のやり方を変える」段階、DXは「ビジネスそのものを作り替える」段階といえます。
IT化・デジタル化・DXは独立した概念ではなく、前の段階があってこそ次が成立する連続した変革プロセスです。そのため、自社がどの段階にあるかを正確に把握することが、DX推進の出発点となります。
地方DXを実現させるメリット

地方DXを実現させるメリットとして、大きく4点挙げられます。
- 地域経済の活性化
- 雇用創出と人口流出の抑制
- 労働力不足への対応
- 多様な働き方の実現
システム構築を地域内で内製化できると、都市部や海外への外注費が地域内で循環し、消費・情報の地産地消が進むことで景気が底上げされます。デジタル人材の需要拡大はリスキリング機会を生み、中高年の再活躍や若者のUターン・Iターンを後押しします。地方での深刻な課題である人材流出の抑制につながり、生産労働人口の増加に期待できるでしょう。
また、RPAやAIで社員の作業負荷を大幅に削減できるため、慢性的な人手不足を吸収しながら生産性を維持できます。さらにペーパーレス化でテレワークが導入しやすくなれば、育児に励む若者や介護中の方、都市部からの移住希望者など、これまで就労が難しかった層が活躍できる環境が整います。
地方DXは、地域経済の自立・人材確保・生産性向上・働き方改革を同時に前進させる、地方創生の核となる取り組みです。
地方DXが進まない「理由」は?3つの原因

多くのメリットがあるなかでも、地方DXが進まない理由として3つの原因があります。地方DXを進めるには、代表的な原因を把握しておきましょう。
「何を変えるか」が決まっていない
DX推進が停滞する根本的な原因の一つは、ビジョンと目標の欠如にあります。
DXに失敗する企業にありがちなのが、ただ「デジタル化を進めたい」という漠然とした認識はあっても、「何のために」「どの業務をどう変えるか」が具体的に定義されないまま着手するケースです。
目的が曖昧なままでは現場の取り組みが分散し、一部のIT化が進んでも組織全体の方向性は揃いません。また、解決したい課題が曖昧なため、具体的な効果を実感できずに「DXは効果がない」と誤解してしまうことも考えられます。
さらに陥りがちなのが、DX推進そのものが目的化してしまうケースです。ツール導入や業務のデジタル化が完了した時点で「達成」とみなされ、本来の目標であるデジタル技術でビジネスモデルを抜本的に変革し、企業価値や競争力を高めることが未達で終わってしまうパターンです。
こうした失敗を防ぐには、まず経営層が「DXで自社をどう変えるか」という具体的なビジョンを策定し、全社へ共有しましょう。そのうえで、取り組むべき業務・プロセスを優先順位とともに明確にし、IT化の先にある組織変革まで視野に入れたロードマップを描くことが大切です。
DXの担当者が「兼務」で動けない
地方自治体や中小企業でDXが思うように進まない背景のひとつに、担当者が専任ではなく既存業務との兼務でDXを担っている実態があります。
本来であれば推進計画の策定や、ツールの選定・導入、現場調整など多岐にわたる業務をこなす必要があるにもかかわらず、日々の通常業務に追われて着手できない状況が続きがちです。
兼務になりがちな背景として、以下の理由が挙げられます。
- 予算・組織体制的に専任ポストを設けるのが難しいから:結果として「とりあえず既存スタッフに兼務させる」という判断になりがち
- DXは緊急ではないと判断されるから:目の前の通常業務は期限や責任が明確ですが、DX推進は「いつまでに何をしなければならない」という締め切りが曖昧になりやすく、優先順位が下がる
- DX担当の業務範囲が不明確だから:立ち上げ時点では「どれくらいの仕事量になるか」が読みにくく、軽く見積もって兼務でいけると判断される
こうした理由で、「忙しいからDXに手が回らない→業務が改善されないから忙しいまま」という悪循環に陥りがちです。DXの本来の目的は業務負担の軽減であるにもかかわらず、導入初期のわずかなコストや手間を避けようとするあまり、長期的な効率化のチャンスを逃してしまうのです。
打開策として有効なのは、まず小さな改善から着手すること。例えば、紙の申請書を電子フォームに置き換えるだけでも、処理時間の短縮や情報共有の効率化につながり、現場の負担を実感として減らせます。
現場の「使いこなせない」「やり方を変えたくない」という抵抗感
「操作が難しそう」「今のままでも困っていない」といったDXへの抵抗感が、変革に踏み出せない障害となっています。
特に紙運用や口頭確認が長年定着している現場では、業務が問題なく回っているという事実が「変化の必要がない」と捉えられがちです。例えば、毎朝ホワイトボードに手書きで作業割り当てしている倉庫現場では、「スマホに入力する手間が増えるだけ」と受け取られ、アプリ導入の提案が立ち消えになるケースが考えられます。
また、従業員だけでなく上層部の説得にも相当な時間を要するのも課題です。特に、現場とトップの距離が近い地方中小企業では、社長自身の意識が変わらなければDXがなかなか進まない状況に陥りがちです。
まずは、一つの業務で小さな成功体験を作り、導入メリットを数字で示すことが、組織全体の受容につながる近道といえます。
地方だからこそDX!都市部の大企業にはない「意思決定の速さ」が強み

「大企業だからできること」「中小企業には関係ない」と思われがちなDXですが、むしろ経営規模が小さいほど取り組みやすく、効果も出やすいのが実態です。経済産業省の「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」では、下記のように記載されています。
経営規模が小さく経営者の判断が迅速な中堅・中小企業等の方が新たな取組を行いやすく、変革のスピードが速く、効果も出やすいことから、実際には、中堅・中小企業等はデジタル活用による大きなアドバンテージがあります。
大企業では、新しい取り組みを始める際、稟議や部門間調整に数か月かかることも多くあります。その間に、市場環境や技術トレンドが変化し、導入時には施策が陳腐化するリスクがあります。
一方、中小企業は経営者が現場に近く、「やろう」と決めた翌日から動ける体制が整っています。この判断の速さによりPDCAを素早く回せるため、デジタルツール導入の成果検証と改善を短いサイクルで繰り返せるのが「地方だからこその強み」です。これにより、以下のような恩恵があります。
- 小さな成功体験を積み重ねながら段階的に拡大できる
- 現場の実態に合った使い方に素早くチューニングできる
- 失敗しても早期に軌道修正できるため、損失が小さく抑えられる
実際、前述の経済産業省の手引きでも、DXに取り組む中小企業は未取組企業と比べて労働生産性や売上高が大きく向上しているとの記述があります。地方の中小企業こそ、組織の身軽さを武器に、都市部の大企業が踏み切れない変革を実現できる可能性を秘めています。
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地方DXの事例

実際に、どのような地方DXが進められているのか事例を紹介します。先進的な事例を参考にすることで、自社でもどのようなDXが実現可能かリアルにイメージしやすくなるでしょう。
大分県:業務の見える化で、約200時間の業務工数削減を実現
大分県の電気設備エンジニアリング会社・柳井電機工業株式会社は、従来の営業報告において「活動内容の実態が見えない」「帰社後にSFAへ入力する手間が発生する」という課題を抱えていました。
業務工数に対する意識改革を目的に、モバイルアプリ作成ツール「Platio」を活用して「営業活動報告アプリ」をわずか3日で開発。報告項目を5項目に絞り込むことで入力負荷を最小化しつつ、SFAとのデータ連携も3日で実現しました。
デジタルツールへの抵抗感がある社員でも迷わず使えるUIが奏功し、帰社後の報告作業が不要になった結果、月60名分で約200時間の工数削減を達成。活動データの蓄積によって営業行動の実態や工数がグラフで可視化され、管理者によるきめ細かいフォローや分析・改善サイクルの促進にもつながりました。
さらに、これまで担当者個人の経験や勘に依存していた営業判断をノウハウとして蓄積する基盤となり、データを起点としたDX推進へのステップを踏み出しています。
長崎県:専門医の遠隔サポートによる離島での高度医療の実現
長崎県は8つの医療圏のうち4つが離島で、他県と比べて医師の地域偏在が深刻なため、本土の専門医が離島を効率的に支援できる体制の整備が急務でした。五島中央病院は、すでにICTを活用した遠隔医療に取り組んでいたものの、4K映像のような大容量データの伝送にはWi-FiやLTEの帯域が限界となっていました。
そこで長崎県・長崎大学病院・NTT西日本を中心に連携チームを結成、ローカル5Gを活用した2種類の実証実験を展開しました。
- ①離島の基幹病院では、スマートグラスや4Kカメラを通じて、本土の専門医がリアルタイムで診療を遠隔支援。脳神経内科・消化器内科・皮膚科・外科(模擬手術・救急)を対象に実施しました。
- ②医師が常駐しない離島の高齢者施設では、看護師がスマートグラスを装着して遠隔から診療・ケアサポートを受ける形を検証しました。
実証の結果、①の高度専門医療については全診療科で映像から十分な診断情報を取得でき、遅延のないやりとりが確認されました。現場の医師から病院間での遠隔医療への実用性が認められたことは大きな成果です。
現場の課題をDXで解決する3つのステップ

DXをどのように導入していくのか、現場の課題を解決するための3つのステップを解説します。
ステップ1.目的を明確にする
DX推進の出発点は、「何のためにDXに取り組むのか」という目的を明確にすることです。
自社・地域が抱える課題を棚卸しし、その解決にデジタル技術がどう貢献できるかを具体的に定義することで、推進の方向性が定まります。
重要なのは、DXを目的ではなく手段として捉えることです。「売上構成の転換」「特定業務の人員不足解消」「顧客体験の刷新」など、達成したいゴールを先に設定すれば、取り組むべき施策や優先順位が自然と見えてきます。結果として、限られたリソースを効果の高い領域に集中させられるため、小さな組織でもDXを着実に前進させられます。
また、具体的なゴールがあれば、関係者の理解や協力も得やすくなるのもポイントです。全員が同じ目標を共有できれば、「どのツールを選ぶか」「どの部署から着手するか」といった判断軸が揃い、無駄な議論や手戻りを減らせます。
ステップ2.現状と理想のギャップを把握する
経営ビジョンを踏まえて、現状とのギャップを明確にしましょう。目指す姿に対して自社が抱える障壁を特定することで、デジタル技術による解決の方向性が定まります。
具体的には、既存の業務フローと社内システムを詳細に点検し、非効率な箇所や改善が必要な領域を洗い出します。例えば、下記のような課題が典型的です。
- 部門間でデータが分断されていて情報連携に手間がかかる
- 手入力による誤記が頻発している
- レガシーシステムの保守費用が膨らんでいる
こうした課題を正確に把握するうえで、現場へのヒアリングが重要です。報告書や数字だけでは見えない、現場固有の問題や改善のヒントは、従業員の声から得られます。特に老朽化・複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムの有無と数を優先的に確認しましょう。
部門をまたいでデータをシームレスに活用できる統合的なシステム環境が理想的で、現状との乖離を可視化することでシステム刷新の判断基準が得られます。
ステップ3.小さく試してから広げる
大規模なシステム導入を最初から行うと現場が混乱し、業務が停滞するリスクが高まります。そのため、まず一部の部署や特定業務からデジタル化に着手し、成功事例を積んでから全体へ展開するアプローチが有効です。
小さな単位で実装とテストを繰り返すことで、仕様変更や方針転換にも柔軟に対応できます。DX推進の過程では想定外の変更が頻繁に起こるため、変化に強い進め方が不可欠です。
着手先としては、毎日の定型業務が最適です。特に、倉庫や店舗などのフィールドワーク現場では、日報・勤怠管理・点検報告といった業務が、今も紙や口頭伝達に依存しているケースが多く、デジタル化による改善余地が大きい領域です。
例えば、倉庫の点検報告をスマートグラスに切り替えるだけで、両手を空けたまま目線を合わせるだけで照合・検品が完了し、転記ミスや教育コストの削減まで実現できます。倉庫・物流現場のDXを具体的に検討したい方は、スマートグラスDXの「Libero Sight(リベロサイト)」もご覧ください。
一定の効果を確認してから横展開することで、現場の抵抗感を抑えながら組織全体のDXを着実に前進させられます。
まとめ
地方DXは、予算や人材が潤沢な組織だけに許された取り組みではありません。むしろ、意思決定が速く現場との距離が近い中小企業・地方組織こそ、スモールスタートで着実に成果を積み上げやすい土壌があります。
大事なのは「何から手をつけるか」です。目的を絞り、現状とのギャップを把握し、まず一つの業務で小さな成功体験をつくる。この3ステップを愚直に踏むことが、DXを”絵に描いた餅”で終わらせないための一歩です。
「うちには難しい」と感じているなら、まずは倉庫の点検報告や毎日の日報など、身近な紙業務を一つ見直すところから始めてみてください。「今年はDXやるぞと言われたけど、何からやればいいの…」——そんな状況から一緒に整理するのが、リベロエンジニアのコンサルティングです。社内スキルや人手が足りなくても、構想策定から動き出せます。まずは相談だけでも、お気軽にお問い合わせください。
\リベロエンジニアが開発した倉庫向けスマートグラスDX/
【この記事の監修者】

株式会社リベロエンジニア
代表取締役(CEO):金子 周平
元エンジニアとして「エンジニアをもっと自由に。」を掲げ、エンジニアが自由かつ公平に働ける環境を目指し2014年に創業。
高還元SESのリードカンパニーとしてIT派遣の新たなスタンダードを作る。現在はデジタルイノベーション企業として、スマートグラスのアプリ開発をはじめ、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の支援に注力している。
