AIで作った資料、そのまま社外に出していませんか?企業を脅かす「シャドーAI」のリスクと対策
2026.06.17
生成AIが普及し、各々で活用して仕事をしている人も多いのではないでしょうか。その一方、AIで作った資料がほとんどチェックされないまま社内を回り、社外へ流れる危険が高まっています。生成物の裏取りやソース確認に時間を取られるといった課題も顕在化し、社員が社内規定外のAIを無断利用する「シャドーAI」による情報漏えいリスクが国内外で報告されています。
シャドーAIとは、企業のIT部門が承認・管理していない生成AIなどのAIツールを、従業員が個人の判断で業務に利用することを指す言葉です。AI導入の第一波は業務効率化など“攻め”の活用でしたが、これから求められるのは情報品質を守り、リスクを管理する“守り”のフェーズです。
本記事では、AIガバナンスの必要性と最新動向を整理し、資料流出リスクを防ぎながらAIの価値を最大化するための新常識と実践ステップを紹介します。
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生成AI導入ブームの裏に残った課題
生成AI導入は業務効率化を目的に急速に進み、今や「AIを使うこと」が当たり前になりつつあります。マッキンゼーが発表した2026年調査によれば、世界の企業の85%がAIを中核事業に統合しており、6割以上が生成AIやエージェントの活用を本格的に拡大していると言います。一方で、社員がどのAIツールを使っているのか把握できている企業は約4分の1しかなく、ガバナンスや品質管理が追いついていない現状が浮き彫りになっています。
AI導入は進むが統制は遅れの傾向
最近の調査では、AI導入が拡大する一方で統制の成熟度が追いついていないことが示されています。Credo AIの2026年調査では、60%の組織がAIの導入を「スケールフェーズ」に進めていますが、成熟したAIガバナンスを備えているのはわずか4%に過ぎません。
プレファクターのまとめによると、自治型AIエージェントの運用で成熟したガバナンスモデルを持つ企業は5社に1社にとどまります。前出のマッキンゼーの2026年レポートでも、戦略・ガバナンス・エージェント運用の各領域で成熟度レベル3以上に達している組織は約3割にとどまり、全体で見ると、成熟しているとは言えず、まだ初期段階にあると指摘されています。
AIリスクの増大が浮き彫りになると、新しい市場機会にも
統制不足は重大なリスクにつながります。IBMの調査によると、AI関連のセキュリティ侵害を経験した組織の63%がAIガバナンス方針を持たないか、まだ策定中であると回答しています。デロイトの2026年レポートでは、73%の経営者がデータプライバシーとセキュリティをAIリスクの最重要課題に挙げ、46%がガバナンスや監督能力の不足を懸念しています。さらに多くの企業がChief AI Officer(企業のAI戦略・AIガバナンス・AI活用の全体設計を統括する責任者)を置くようになったにもかかわらず、エージェントAIのガバナンスが成熟しているのは21%に過ぎません。
こうしたリスクに対応するため、AIガバナンス自体が新たな市場となりつつあります。ガートナーはAIガバナンス市場の規模が2026年には4億9,200万ドルに達し、2030年には10億ドル以上へ拡大すると予測し、年間36%の成長率を見込んでいます。AI導入のメリットだけでなく、統制の不足が企業にとって大きなリスクとなる時代に突入したと言えるでしょう。
AIガバナンスと統制の必要性

AIの利用が当たり前になった今、単に使うだけでなく、生成物の品質や法令順守、倫理面のリスクを管理する統制が不可欠です。ここでは、AIガバナンスの概念と統制フェーズが求められる理由を解説します。
そもそも、AIガバナンスとは?
AIガバナンスとは、「AI/生成AIを活用したシステムやサービスにおいて発生するリスクを、ステークホルダーにとって受容可能なレベルで適切に管理しながら、そこからもたらされる正のインパクトを最大化する管理体制やその運営」を指します。
AIの設計・開発から運用・廃棄に至るライフサイクル全体を通じ、ポリシーの策定、リスクアセスメント、推進体制の構築、モニタリング、継続的な改善までを含む枠組みです(参照記事)。
統制フェーズを迎えた理由
AIがこのように誰でも使えるようになった時代になることで、また別のフェーズに入ったと言えます。改めてその理由を整理してみます。
リスクが顕在化したから
生成AI利用の急増に伴い、誤情報や差別的表現、著作権侵害などのインシデントが報告されるなど、企業は早急な対応を迫られることが増えています。
規制の整備が急務になっているから
2024年5月には世界初の包括的AI規制となるEU「AI Act」が成立し、リスクに応じてAIシステムを分類して規制します。日本でも総務省・経済産業省が2024年4月に「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を公表し、AI開発者・提供者・利用者別の望ましい行動を示しており、どんどん広めている模様です。
守りの統制こそ社会的信用とブランド価値の向上につながるから
PwCは、AIガバナンスに取り組むことで開発効率の向上、優秀な人材確保、企業ブランド向上など攻めの効果も得られると指摘しています。守りの統制は企業価値向上にも直結するのです。
国内外のAIガバナンス動向を知る

生成AIのリスク管理に向けた取り組みは世界中で本格化しています。EUのAI Actや日本のガイドラインなど、国内外の最新動向を紹介します。
EUのAI Act
EUのAI規制法(AI Act)はAIシステムを「許容不可」「高リスク」「限定的リスク」「最小リスク」の4段階に分類し、高リスク用途には厳格な要件(データ管理、説明責任、透明性など)を課します。生成AIについては安全性・著作権・プライバシーを確保するための義務が盛り込まれています(参照記事)。
日本のAI事業者ガイドライン
経済産業省が公表した「AI事業者ガイドライン」は、AI開発者・提供者・利用者それぞれの立場で留意すべき事項を整理し、リスクの把握・対策・契約への反映などを促しています。今後も随時改訂が予定されており、生成AIやAIエージェントへの具体的な対応が拡充されています。
国際的なフレームワーク
各国ではリスク管理のフレームワーク整備が進んでいます。米国ではNIST(商務省の下にある国立標準技術研究所)がAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)を策定し、ISOでもAIマネジメントシステム規格「ISO/IEC 42001」が登場しました。PwCの調査では、生成AI利用企業の67%が利用ガイドラインを策定中または検討中で、AIガバナンスを競争力の源泉と捉える動きが広がっています。
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AI統制フェーズで進む支援や取り組みとは?
AI統制を進めるにはツールだけでなく専門的な支援が重要です。ここでは、AIガバナンス構築を後押しする具体的なサービスや取り組みの例を紹介します。
AI支援サービスは世の中にあふれていますが、AIガバナンスに特化した支援はまだ限られているのが現状です。PwCの解説によれば、AIガバナンスを実践することで開発効率の向上や売上拡大といった攻めの効果も得られる一方、守りの投資が中長期的に企業価値を高めることが示されています。誰もがAIを使うようになった今こそ、生成物の品質やリスク管理を徹底し、情報の健全な循環を支える仕組みを整えることが企業の責務であり、私たちが支援できる領域です。
企業が取り組むべき領域は多岐にわたりますが、例えば次のような支援メニューが考えられます。
企業のAIガイドラインの策定支援
自社の業務や利用ケースに応じたAIポリシーやルールを作成し、社員全体に教育すること。ガイドラインにはデータ利用範囲、著作権・個人情報保護、適切なプロンプトや生成物の扱い、監査ログの保存などを盛り込むことが重要です。
AI利用に伴うルールを決めたツールの提供
利用者が生成AIを使う際に自動的にガイドラインチェックを行う支援ツールを開発し、違反があれば警告するなど統制機能を提供します。
情報品質チェックAIエージェントの開発
生成物が事実に基づいているか、差別的表現や著作権侵害が含まれていないかを自動で検査するAIエージェントを組み込み、情報品質を担保します。
リスク管理研修・啓蒙支援
AIガバナンスの重要性や法規制の最新動向を学ぶ研修を提供し、従業員のリスク感度を高めます。トップダウンとボトムアップ双方からの浸透が重要です。
情報品質を守るための実践ステップ

AIガバナンスを自社で定着させるには、段階的な取り組みが求められます。本章では、現状把握から継続的改善までの実践ステップを整理します。
AI統制フェーズを成功させるには、以下のステップで段階的に進めることが有効です。
現状把握とリスク分析をする
どの部門がどんなAIを利用しているか、生成物の取り扱いはどうなっているかを棚卸しし、機密情報漏えいや著作権侵害、ハルシネーションなどのリスクを特定します。
ポリシー・ガイドラインの策定をする
AI開発・提供・利用の各フェーズで守るべきルールを策定します。日本のAI事業者ガイドラインやEUの AI Act、NISTのAI RMFなどの外部フレームワークを参考に、自社の規模や業務に合わせてカスタマイズします。
推進組織と監査体制の構築をする
DX部門や情報システム部門だけでなく、法務・コンプライアンス・監査部門を巻き込み、AIガバナンスの専門チームを編成します。定期的なモニタリング・監査によってガイドライン遵守をチェックします。
利用者の教育と意識啓発を進める
統制は現場の理解なくして機能しません。全社的な研修やeラーニングでAIリスクやガバナンスの重要性を共有し、利用者自身がリスクに気付けるようにします。
継続的な改善を意識する
AI技術や法規制は急速に変化します。ガイドラインや統制機能を定期的に見直し、第三者認証の取得など外部の視点も取り入れて改善を続けます。
まとめ
AI導入の第一波は「とりあえず使ってみる」段階で、多くの企業が生成AIの便利さに注目しました。しかし、第二波では生成物の情報品質や法令順守、倫理面のリスク管理が企業の生死を分けます。
AIガバナンスはリスクを抑えつつビジネス価値を最大化するための枠組みであり、国内外でガイドライン整備が進んでいます。リスク管理体制の構築と情報品質の担保を怠れば、AI導入が逆に信用低下やコンプライアンス違反につながりかねません。
AIを「正しく使わせる」ことこそが、これからの競争力の源泉です。本記事で紹介したステップを参考に、自社のAI統制フェーズを本格的に進めてみてはいかがでしょうか。
なお、リベロエンジニアではAIガイドラインの策定やAI利用ルールの構築、情報品質チェックAIエージェントの提供、リスク管理研修の実施など、AIガバナンス体制の構築を支援しています。AI人材の採用やAI企業案件への伴走支援も行っておりますので、AIガバナンスに課題がある企業様はぜひお気軽にご相談ください。
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<構成/リベロエンジニア・コンテンツ編集部>
